２.歌のことなど　　「世界で一番美しい国歌」

　99年４月29日の読売新聞朝刊に、「『日の丸』『君が代』どう扱う」というテーマで、作曲家の團伊玖麿（75歳）、歴史学者の中村政則（63歳）、法学者の小林節（50歳）の三氏による誌上討論が掲載されていました。日の丸と君が代の法制化を主張する小林氏、君が代の歌詞には問題があり、法制化を急ぐべきでないとする中村氏、国民的慣行になっている日の丸と君が代の現在のあり方は理想的なものだと述べる團氏の主張の隔たりは、その専門分野や世代間の相違をも考え合わせてとても興味深いものがありました。ごく一部を引用します。

小林氏　批判能力のない子供たちが、大人の世界では少数派の意見を一方的に吹き込まれ、国旗と国歌を嫌うことでこの国まで嫌うようになっている。こうした因果を断つために、日の丸・君が代の法制化を今、行ったほうがよい。

中村氏　学校の先生たちは今、イジメとか登校拒否、無気力、学級崩壊などへの対応に苦しんでいる。校長、教頭、教諭が一致団結してこれらの問題に当たらなければならない大事な時だ。この時期に、日の丸・君が代の法制化問題を持ち出すべきではない。

團氏　二人とも大学の方なので教育のことばかり話すが、僕のようにまったく日本の教育を信頼していない個人としては、教育の現場がどうこういうのにはまったく興味はない。（中略）その中で、今の君が代はたくましく生き残ってきた。これはだれかが決めたのではなく、国民が決めた。これこそ民意だ。

　私自身は、自由放任をモットーとする團氏の発言に共感するところが多かったのですが、氏が、一番最後に述べたことばにはちょっとびっくりしました。

團氏　世界で一番美しい国歌は韓国だ。これは、故・安益泰氏の作曲でね。長くスペインに住んでいた男で、国が解放されたとき、一気に書き上げて李承晩（韓国初代大統領）の所へ持っていって決まった。国歌はそうして決まるものだ。

　新聞の座談会の記録ですから省略も多いでしょうし、もっとくわしく聞きたいものだと思いましたが、それにしても「世界で一番美しい国歌は韓国だ」とまで團氏が断言できるその理由は何なのでしょう。

　安益泰氏とはどんな作曲家だったのか、また、韓国の国歌の歌詞とはどんなものであるのか、それは次のページで紹介いたします。